敗北の味はとってもしょっぱい。初の敗北で僕はそれを知った。
 そして、次は勝ちたい。そんな意欲も僕を駆り立ててくる。
 だけど、何で負けたんだろう。それが僕にはさっぱり理解できなかった。
 だから先に調べよう。僕が負けてしまった理由を。




          「 負け続けた先にあるもの 」



 自慢じゃないけれど、僕はポケモンバトルに負けたことがない。
 クラスで一番強い。そんなことを自慢していた子にも悠々とバトルで勝利できた。
 だから、実力には多少自信を持っている。うん。持っている。
 だけどいつも頭に残っているものもある。それは、僕が初めて負けた時のものだった。

「優勝者はコンパンを捕まえた、むしとりのヨシオくん! 得点は243点でした」

 そんな調子だ。聞く度に、思い出す度に胸が熱くなるのが分かる。
 その時、僕は優勝した彼の隣に立っていた。係員の人に渡された“かわらずのいし”を手に握ったまま。そしてもう片方の手にあったのは、カイロスの入ったパークボール。
 信じられない結果がそこにはあった。
 出てきにくさ、強さ、格好良さ。カイロスはその3点が自然公園でトップクラスのポケモンだ。
 対抗できるのはカイロス、もしくはストライクだけ。生息ポケモンのリストを見た時そう確信していたのに、それが負けた。コンパン1匹に。
 僕は悔しかった。相棒のモココにかなりのダメージを負わせてきたこの虫が負けるなんて……。
 ……次は、コンパンで優勝してやる。
 僕はそう心に決めて、次の大会へと熱意を燃やした。




「優勝者はキャタピーを捕まえた、じゅくがえりのコウイチくん! 得点は221点でした」

 かわらずのいしがもう1つ僕の手に握られる中、僕はまたしても悔しさにうちふるえていた。
 カイロスよりも、ストライクにさえ勝るかも知れないコンパンが、今度はキャタピーに負けた。
 小細工ならこの自然公園でかなりの上位に挙がりそうなこの虫が負けるなんて……。
 ……次はキャタピーで優勝してやる。
 僕はそう心に決めて、次の虫取り大会へと執念を燃やした。



「優勝者はスピアーを捕まえた、むしとりのヨシオくん! 得点は229点でした」

 オボンのみが僕の手の平に収まる中、僕はまた、こみ上げる悔しさを噛みしめていた。
 カイロスよりもコンパンよりも、この自然公園で一番成長を感じさせてくれそうなキャタピーが、成長の小さいスピアーに負けるなんて……。
 ……次はスピアーで優勝してやる。
 僕はそう決心して、次の虫取り大会へと雪辱を誓った。



「優勝者はバタフリーを捕まえた、じゅくがえりのシンジくん! 得点は233点でした」

 僕がストックしているかわらずのいしが1つ増えたことを認識している中、同居する悔しさが胸を熱くしていた。
 森に入る時にまず警戒されるほどの存在感を誇るこのハチが、粉ばかり振りまくバタフリーに負けるなんて……。
 ほぞを噛みつつ、次に開催される虫取り大会に想いを馳せつつ、強く決心する。
 ……次はバタフリーで優勝してやる、と。



「優勝者はカイロスを捕まえた、むしとりのケイスケくん! 得点は246点でした」

 またしてもかわらずのいしが僕の手持ちに加わる中、僕は悔しさを抱えて考えていた。
 なんで僕は勝てないのか。前の大会で優勝しているポケモンを捕まえて、優勝できる条件をそろえているのに、僕は勝てない。
 だから、だから……。
 次の大会でカイロスを捕まえて、もし優勝できなかったら、負けた原因を考えるのを止めよう……。
 そう固く心に誓い、僕は次の虫取り大会に想いを馳せた。



 結果発表。
 それは何度やっても、例え小さな大会であっても緊張感が出てきて、僕をピリピリさせる。
 今度こそは勝つ。そんな執念じみたものを心に抱えて係員の声に集中する。
 僕の手にはパークボールに入ったカイロスがボールを揺らしていた。

「第3位、……スピアーを捕まえた、じゅくがえりのコウイチくん! 得点は233点です」

 係員の声に合わせて拍手が起こり、彼に係員がオボンのみを手渡して、健闘をたたえた。
 しかしというかやっぱりというか、彼の顔はうれしさよりも悔しさが大きそうで、苦い表情だった。
 僕は、多分負けていないと思う。

「第2位! ストライクを捕まえた、むしとりのヨシオくん! 得点は241点でした」

 さっきよりも大きな拍手が公園内に響いて、彼にかわらずのいしが贈られた。
 舌打ちが彼から漏れ、1位に期待が寄せられる。
 僕はまだ呼ばれていない。勝ったのか、それとも4位以下なのかはよく分からないけど、期待はしてもいいんじゃないか。そう思う。
 そろそろ負けから脱出したい。そんな希望もあるのだから。

「第1位――」

 係員の声に意識を集中させる。
 気のせいかどうかはよく分からないけど、周りで揺れている草の音が消えた気がした。

「カイロスを捕まえた――」

 ポケモンは僕が捕まえたものと同じだった。
 あとはそれが僕のものであればいい。もしそのカイロスが僕のものだったら、ようやくリベンジが果たせるのだから。
 僕の名前を呼べ。そう心で祈る。

「ポケモントレーナーのリウイくん!」

 その名が僕の耳に聞こえた瞬間。僕は勢いよくガッツポーズをした。
 カイロスの入ったボールがつぶれそうなくらい強く手を握り、声を漏らす。
 ようやく、やっと僕の負けが清算できるのだから。
 係員からたいようのいしを受け取り、ボールの中で暴れているカイロスを改めて見やった。
 何故か今日はカイロスがとても誇らしげに見えた。
 
 そして、勝ったことで何となく分かった気がした。
 いや、勝たないとこの事には気付かなかったかも知れない。


 ……僕の手持ちに、たいようのいしを使うことが出来るポケモンがいないということを。