取り越し苦労


 ……“みどりのそうげん”。そこはプクリンのギルドがあるトレジャータウンからさほど遠くない所にある広い平原。
手軽に冒険気分が味わえる場所としてポケモンたちがよく訪れる観光スポット、と言われている。
 しかしそれは一部の区域だけの話で奥へ進むと、天候が変わりやすく入り組んだ地形が続く秘境となる。
 そう、それは自然の手による彼らへの警告なのかもしれない――。


「……見つからないですわね」
「ダメだ、こっちもいないよ」
「あのバカ、どこに消えたって言うの!?」
「こっちが聞きたいよ」
 ミナヅキ捜索隊(仮)は困惑していた。なぜならミナヅキの姿がどこにもないのだから……。

 ……どんなに周辺のポケモンを脅そうと、聞こうと、ふしぎだまを使おうと一向に手がかりが掴めない。
「キサラギ、本当にこの場所ですの?」
「間違いないって!!」
 キサラギは怒りを露わにしていた。どうもミナヅキよりも彼を見つけられない自分にイライラしているらしい。
「そのミナヅキさんがどこか別の所に行ってたりはしないの?」
 アチャモのルストはキサラギに言った。……確かにあり得ない話ではない。
 なぜならキサラギだってそうやって自力でダンジョンを脱出し、プクリンのギルドへと押しかけたのだから。
「……ありうるわね」
「一回引き上げます?」
「……うん」
 キサラギは少しためらいがちに頷き、ミナヅキ捜索隊(仮)はギルドへの帰途へと着いた。

「キサラギは何で、その……ミナヅキさんと旅してるんですの?」
「……アイツに訊いて」








 ギルドに戻ったミナヅキ捜索隊(仮)は食堂に異様な熱気を感じ、食堂へと飛び込んだ。
「すごいですね。まさかあんな材料からここまで立派な料理は作れませんよ」
「ははは、旅の生活が長かったんで自然に身につくんです」
 そこではミナヅキとチリーンがのんびりとご飯の支度をしていた。
「…………」
 キサラギはしばらく口をあんぐりと開けて呆けていたが、正気に戻ると
「こんのヴァカ男おおおおおおおおッ!!!」
 とギルド全体に響き渡るような大音量で叫んだ後、ミナヅキの胸ぐらを掴んだ。
 そのひょうしでミナヅキが運んでいた小鉢が床に落ち、中身がぶちまけられる。
 ついでにギルドのメンバーも何事かと集結した。
「あんた、アタシがどれだけ心配したかと思ってるの!! しかも料理してなごやかムードをほんわかと漂わせて! 何考えてるの!!」
「いやぁ、入れ違いになったらしくてさ。なんかぼーっとしてるのも何だし」
 キサラギの勢いなど完全にお構いなしらしい。怒るキサラギとは対称にミナヅキは笑顔だったりする。
「アタシ達、完全に取り越し苦労じゃない!」
「うん、そだね♪」
「――ッ!!」
 キサラギは胸ぐらを掴む手に力を込めた。
「ちょ、ちょっと。痛いよキサラギ」
 ミナヅキは少し楽しそうに言う。
「アンタはいつもいつも!」
「いいじゃない、すぐに再会できたんだから」
「よくない! 心配したんだから!」
「分かったよ、ごめん。だからその手放して。食事がの支度が住んでないんだから」
 ミナヅキがそう言うとキサラギはチッと舌打ちをして手を放した。
「皆さん、お騒がせしました。もう少しで支度が済むんであと2、3分待って下さい」
 ミナヅキはそう言い、せっせと食事の支度にかかった。

「うんうん、ラブラブですわねぇ」
 キマワリは誰にも聞こえないようにくすくす笑いながら呟いたのだった。