白と緑のワンダラー
「ここ、さっきも通ったと思うんだけど……」
「うん。迷った迷った。さすがはミステリーと名のつくだけあるよ」
アタシとミナヅキは完全に道を外れ、木々の間をくぐり抜け、そして迷っていた。
ここはミステリージャングル。何か最近発見されたらしいダンジョンで、古代の宝があるとか無いとかいう噂話が世間を駆けめぐったという場所だ。ただし難所が多く、似たような地形が続く事により探検隊もそうそう寄りつかない場所でもあったりする。
「木を登っても見えるのは木だけだし、どうしようかしらね」
アタシは溜息を漏らした。まさか森の種族であるはずの自分が迷うと思ってなかったのだから。
「……でもキサラギの出身地の“キザキの森”もそんな感じじゃなかったっけ?」
「ここまで複雑じゃないわ」
ミナヅキの質問は正論だった。確かに“キザキの森”もここまでじゃないが木が生い茂っていて複雑だ。でもそれらは風とかいろんな物でカバーが出来るため、さほど問題じゃない。
でもここは風が弱く、しかも湿気が多いために風が吹いても当てには出来ない。
例えばキザキの森では風は近くのポケモンだとか木の実だとか、水たまりだとかそう言う情報を運んでくれた。それに対して、ここの場合は湿気によってそれらの情報がごちゃごちゃに混ぜられて、いったい何が何だか分からなくなる。それがとにかく予想外で、悔しい事だった。
「森の種族とジャングルの種族って全然違うもんだね」
「まったくよ」
アタシ達は再度溜息を吐き捨て、茂る草を避ける。そして、ぬかるんだ泥に足を取られて転倒し、アタシの怒りのボルテージが上昇した。
「……ジャングルなんて、もうこりごり」
「同感だよ」
アタシとミナヅキは泥だらけになりながら漏らした。
アタシの緑の体も、それどころかミナヅキの真っ白な体毛も台無しになってしまったように茶色くなり、何となく変な臭いがする気がする。もはや完全に森の種族がどうとかいった問題じゃない。しかも同じ怒りを共有しているためにミナヅキに八つ当たりするとかいった気も起きない。
「あ〜あ、ここいらに池とか湖とかないものかしら」
「さぁ、少なくとも水たまりは事欠かないよ?」
「確かにそうね。でもそんなもので体を洗うつもり?」
「まさか」
ミナヅキは首をわざとらしく横に振り、おどけてみせる。
「僕のこの白く美しい毛をこんな汚らしい水たまりで洗えるわけないだろ?」
「いつまでも言ってなさい」
アタシはミナヅキの顔面に遠慮無く泥を投げつけ、頭から泥まみれにしてやる。ただでさえコイツは女のアタシが羨ましくなるほどの毛づやの持ち主なのにこういうニヒルな発言をわざとらしくするから腹が立つ。
……それよりもこんな所でグズグズしてる暇なんてない。早くしなきゃ日も暮れるし、何よりも迷うって事自体がアタシの森の種族としてのプライドを揺るがしかねないんだから。