1st  冷たい雨の中を


 「た、頼む。殺さないでくれ!」
 男は必死で目の前の機人(アメッド)に訴える。
 男の目の前にいる機人の右手の平にある砲口は男の頭にぴたりと合わせられていて、あとは弾丸さえ放たれれば男の命は容易に消え去ることだろう。
「こ、殺さないで……」
 男は訴え続ける。ガタガタと震え、死というものの恐怖を感じながら。
 口元も安定せず、目は恐らく機能していないに等しいくらいに虚ろだ。
 そして機人の方は、男を見据え、一筋の涙を流していた。……髪は手に集まるエネルギーの影響か、淡い桃色に発光しているかにさえ見える。
「……ごめんなさい。私にはもう……」
 機人は涙を頬に伝わらせながら悲しげに言う。男の方から顔を背けて。
「……私は、自分が動かせないんです。この体のせいで」
 機人の砲口にエネルギーが充填され、赤白い球体が砲口の出口にまとわりついて、男を睨む。
「あ、あぁ……」
「…………」
 機人の左背部についた翼のようなものが圧縮した空気を吐き出し、砲の使用準備が整う。
 機人は顔を背けたまま、腕だけが男の額に照準を固定する。
「お、俺は、……死ぬのか?」
 男は言葉を紡いでみるが、誰も答えはしなかった。
 そして、返答の代わりに機人の砲口から紅い弾丸が吐き出された。



 ぽつりぽつりと雨が降り出して、窓に当たって下へと流れていく。
「また雨……」
 窓の外を見ながら少女は呟いた。薄暗い部屋の中で外の景色を見るその頬には涙の跡が残り、顔の右側は機械による義眼が取り付けられている。
 そして少女は自分の右手の平を見つめた。
 そこには洞穴のように砲口があって、4本の指が存在する。そして、それはいずれも機械だ。
「……また、殺した」
 少女は人の命を奪った右手を握り、外の景色に背を向けた。
 彼女の目に映るのは薄暗い室内にある簡易式のベッドとテーブル、2脚の椅子。そして隅に置いてある縦1,5m、横2m程の大型の機械だけだ。
 少女は右手の砲口を自分の顔に向ける。しかし、右手にエネルギーが集中することはない。
「……こうして、自分を責めることもできないんですね」
 少女は右手を下げ、部屋を後にする。
 彼女が足を一歩踏み出すごとに、重い足音が響き渡る。
「……しかも、足は2本あれば充分だと思います」
 彼女はぽつりと呟くが、誰もいない廊下から返事は返らず、ただ4本の機械の足が床に下ろされる。
 ガシャリ、ガシャリと鈍重な足音を立てて雨の降りしきる音の中、彼女は進んでいく。
 まるで、暗い処刑台に向かう罪人のように……。


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